デザインライフ設計室

コラム

部屋同士をゆるやかにづなぐ間取りの工夫。

2022.9.7

壁や建具で部屋同士を完全に仕切る間取りにしてしまうと、どうしても窮屈感や圧迫感が出てしまいます。ましてや、家がコンパクトとなれば、これは避けたいもの。そこで取り入れたいのが、ゆるやかに仕切られた間取りにすること。開放感が出るうえに、家族の気配が伝わるメリットがあります。これまでに設計した事例を交えて解説します。

ゆるやかに仕切ると、つながりや開放感が生まれます

場所と場所の仕切り方を考えることは、つながりを考えることでもあります。こちらは、2階建て住宅の2階すべてをリビング、ダイニング、キッチンにした事例です。

キッチンとダイニングの間にあるのは、シンクのあるカウンター。この存在のおかげで、キッチンとダイニングがさりげなく視覚的に分かれています。壁で視界をさえぎるように仕切るケースとは異なることがわかるでしょうか。互いのつながりは残り、開放感があります。これが今回解説する、「ゆるやかに仕切る」ということ。

(写真の手前側がリビング。中央の木の腰壁で囲われた内側に階段があります)

ダイニングとリビングをゆるやかに仕切っているのは階段です。階段室の腰壁の高さを調整して、ダイニングとリビングがかりげなく分かれつつ、同時につながりが生まれるように工夫しています。

コンパクトな家の場合、部屋同士を完全に区切らないことで、大きな空間を手に入れることができます。たとえばこの事例のように、LDKがひとつながりになるケース。広がりの感じられる家づくりがしやすくなります。また、採光や通風の面でも有利に。心地よさがぐっと増してきます。

床の段差や壁の色がゆるやかな仕切りに

こちらの事例は、ダイニングの脇に、家族みんなが楽しむ図書コーナーを設けたケースです。図書コーナーはフローリングのダイニングと異なり畳敷きに。大きな本棚がつくりつけてあり、家族は思い思いにお気に入りの本を選んで、畳に寝転びながら本を読んだり、くつろいだりします。

この図書コーナーとダイニングの間にも、間仕切り壁や建具はありません。かわりに、床のレベルを変えることで、あいまいに互いの領域が分かれています。図書コーナーの床はダイニングよりも1段下がり、天井の高さも低く抑えています。

加えて、壁の色にも変化をつけました。ダイニング側には白い壁。図書コーナーの壁は濃い茶色に。これにより奥行きが感じられ、広がりが生まれました。

この事例では、段差や素材、色を変えることによって、「ゆるやかに仕切りながら、つながってもいる」状態をつくっています。ゆるやかなつながりなので、家族の行き来はとても自然で、カジュアル。そばにいながら、バラバラのことをしていることが、まるで当然であるかのような、自由な雰囲気のある空間になりました。

建具を使ってフレキシブルに仕切る

この事例は、リビングとテラスを「完全〜ゆるやか」にフレキシブルに仕切ることのできるケースです。正面に見える簾戸(すど)の奥がテラスで、壁と屋根で囲まれた半屋外空間(外)です。

テラスとリビングの間には、ガラス戸、簾戸、障子を設けました。戸はすべて壁に収納できる仕掛け。そのため季節や天候、気分に合わせて、自由な組み合わせを楽しむことができます。もちろんすべてを開け放つことも可能です。

リビングとテラスの床材は、あえて似た雰囲気のものに。リビングがテラスまでのびていくように見えて、広がりを感じることができます。

気候のよい時期には、テラスでのんびり過ごし、リラックスする場所にも。内と外が引き戸で仕切られ、あいまいにつながることで暮らしに彩りが生まれます。

建具の開け閉めで仕切ったりつなげたり

可動する建具(折り戸)でゆるやかに仕切る事例をもうひとつ。ダイニングとリビングに隣り合うサンルームと名付けたスペースについて説明します。

名前はサンルームですが、多目的に使える場所としてつくりました。子供の遊び場、プレイルームに、また、外の景色を見ながら食事をする場所としても使えます。

リビングとサンルームは、メッシュ素材の生地を貼った建具で仕切ります。建具を閉めていると別々の場所になりますが、建具に貼った生地が透けているので、完全に閉じるわけではありません。建具の生地を通して、隣り合う空間を感じることができます。

ゆるやかに仕切られているので閉塞感はありません。建具をあけておけば、隣り合う場所をつなげることもできます。そのときの気分に合わせて調整可能ですから、いつでも心地よく暮らすことができます。

今回ご紹介した事例のように、場と場を「小さく」「完全に」仕切るのではなく、ゆるやかにすると、のびやかさが生まれます。

気持ちよい暮らしのポイントはひとそれぞれ。自分らしい暮らしに合わせた仕切り方とつながり方を見つけてみてはいかがでしょうか。

  • ESSE online 「日刊住まい」2022.9.7 掲載
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