デザインライフ設計室

第7回「こんな風に設計しています | 1 」

これから家づくりをする方や家づくりを考え始めようとしている方に向けて、このブログの中で不定期に連載をしていこうと思います。
個別のテーマはその都度変わりますが、連載のタイトルは『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』として、これまでの設計事例の中からテーマに合わせて新築、リノベーションにとらわれず事例をご紹介しながら、毎回「丁度いい」暮らしや住まいとはどのようなことなのかを探っていきたいと思います。
丁度いい暮らしを生み出すための設計の工夫や考えたこと、クライアントの要望にどのように応えてきたのか、その他、個人的な想いなども書いていきたいと思っていますので是非お付き合いください。

第7回目になりました。いつもは前置きで書いたように事例を中心に住まいの部分や場所にフォーカスしてお話をしていますが、今回は少し視点を変えて、私自身の設計方法についてお話したいと思います。

私は設計者としてクライアントや建て主の要望に耳を傾け、お話を良く聞くタイプだと思います。クライアントとの打合せを通した会話の中には発見的なことがありますし、設計の手掛りとなるヒントが散りばめられていますので、むしろたくさんのお話をしたいと思っています。一方でクライアントの要望や条件とは関係なく(影響なく)、私なりに建築をつくる上で気に掛けていることが幾つかあります。こだわりと言うと少々大げさですが、設計する上での癖、もしくは譲れないポイントのようなものです。幾つかあるものから、今回は具体的に設計をする中で、特に意識していることについて自分を振り返りながら書いてみます。

皆さんは、どのように設計がはじまるのか、どんな事柄から具体的な設計がスタートするのかということに興味や関心はありますか?建築を専門としている方はとても気になることだと思いますが、一般にはあまり気にされないことかもしれません。ある時、突然イメージが舞い降りてきて…ということは全くありません。実際は様々な与条件をひとつひとつ整理していくことで何となくこんなことではないかというおぼろげなイメージがつくられていきます。そのイメージ(カタチの原型)を色々な側面から見直していくことでひとつのカタチにまとまっていきます。

では、具体的にはどのように設計を進めているのかをみてみましょう。

ある土地に新築で住宅を建てることが決まり、いよいよ設計がはじまるとします。土地が予め決まっている場合にはその都度、土地探しをお手伝いする場合には良い土地に出会った時に、行政などに調査に出向き、ヒアリングをして建築に関する法令や規則、規制を調べます。同時にクライアントから家づくりや新しい暮らしについてお話をお聞きします。土地(敷地)には何度か行って、太陽の動きによる陽のあたり方を確認したり、天候による雰囲気の違いを感じたり、周りの建物の状況を把握したり、視線の抜ける方向や遠くに見える景色を想定します。その他、周辺を歩き廻ることで街の雰囲気を体感することも大切にしています。このような、その土地固有の情報と建築法規、クライアントの要望や予算などを頭に入れて同時に考えはじめます。最初は自分の頭の中がグチャグチャになるので気持ちが悪いですが、そのままの状態を保ちながら実際の土地(敷地)の、どのあたりにどれくらいの大きさ(広さ)の建物が建つのが相応しいのかを考えていきます。この時には、先に触れた様々な情報を引き出しながら照らし合わせるように、全ての要素が合致するポイントを探っていきます。(実際には簡単にはあたりがつかずに何日も費やすこともありますが)このようにしておおよその建物の配置(土地の中で建物が建つ位置)と大きさが決まっていきます(この時点では仮に決めただけでまだ決定ではありません)。

建物のおおよその配置が決まると、外部環境と内部の関係を気にしながら建物の構成を考えていきます。平屋なのか、2階建てなのか、3階建てなのかによって違いはありますが、それぞれの階のどの辺りにどんな部屋や場所があると良いのか、部屋と部屋の関係や繋がり、外部と内部の関係はどのようにするのが自然なのかを細かく考えていきます。この時にも頭の中にある様々な情報を引っ張り出してきて、この方位から陽が入りそうとか、この方角に視線が抜けそうなど色々と想像しながら、全ての要素がピタッとはまるポイントを探っていきます。例えるならパズルのピースを嵌めていくような作業ですが、パズルと大きく違うのは最終的な完成形が見えていないということです。パズルは見本の写真や絵が予め用意されているので、見本と同じようにピースを嵌めて完成させますが、建築の場合はピースはあるものの完成形は全く分からないので、ひとつひとつのピースを地道に嵌めては戻して嵌めては戻してを繰り返しながら探っていくことになります。もしこの時、どうしても上手くいかなかったり、しっくりこないことがあれば、その理由を考え、必要に応じて配置から考え直すこともあります。

私の場合、間取りのような平面的な要素を考えて行くのと同時平行で断面の情報も整理していきます。部屋の高さや上下階の繋がり、建物の高さ方向に関することも同じタイミングで考えながら整合性を図っていきます。大きな視点では建物全体の高さに関わるような屋根の形状や勾配など、細かな視点では、天井の中に隠れてしまう配管のルートや材料の大きさや厚みなども厳密な高さに関係してくるので同時に考えます。多くの事柄が関係しながらバランスを取り合っているので全体と詳細を同時に捉えていきます。

この検討段階では幾つものパターンが生み出されますが、それぞれの良い点と悪い点を自分で評価しながら、悪い点をひとつひとつ潰すようにしてブラッシュアップしていきます。スタートからゴールまでは1本の道で繋がっているはずですが、途中には何本も枝分かれする道が存在しています。枝分かれした道の先にも更に何本もの道が伸びているので、ゴールは無数に存在するのだと思います。その中から自分なりの正解を見つけ出してゴールに辿り着くまで、進んだ道を引き返して違う道に進んだり、また戻ったりを繰り返します。すんなりとゴールに辿り着ければ良いのですが、経験を重ねてもスタートからゴールまで迷わず辿り着くことはないのではないかと思います。

ここまで、土地(敷地)に新築で住宅を建てることを前提にお話してきましたが、これがリノベーションであっても同じです。マンションや団地の一住戸をリノベーションする場合には配置自体を検討することはありませんが(物理的に出来ませんが)、既存の状態を観察して、壊すことができないことや変更ができない制約を敷地条件や環境のように「予めあるもの」として捉えて、その中で何が出来るか、どのようなことが相応しいかを探っていきます。そういう意味では大きな違いはないと思いながら設計をしています。

設計をする中で特に意識していることは、平面と断面を同時に考えながら、更に具体的な場面を立体のイメージとして想像するということです。設計をはじめた初期の頃はあまり意識をしていませんでした。ある時、いつもと同じように設計していると、生活のシーンがビジュアル化されてパース画のように立体的かつ奥行きを持った絵として私の脳内に現れたのです。この時以前にも同じようなことはありましたが、この「脳内パース画」を意識的に行うようになってからは、設計の時のイメージと現実の空間のずれがほとんど無くなりました。空間の感じ方に大きく影響する奥行きや広がりの感覚、光の明暗や陰影の状態が早い段階からリアルにイメージできるのでとても良い方法だと感じています。このイメージを場面場面で想像してパラパラマンガのように繋ぎ合わせていくと、普段の生活がひと続きのストーリーのように見えてきます。また、そこに在る空間ではどのような風景や景色が見えているのかも想像することができるのでとても臨場感があります。この脳内のパース画(パラパラマンガ)で見える情景と平面・断面を何度も行ったり来たりしながらイメージを修正して精度を高めていきます。

このような経過を経て、初期のプランニングが完了すると、この後はしばらく寝かせておきます。数日経ってから客観的な眼と心で再度確認するようにしています。設計にのめり込んでいると、視野が狭くなり正しい判断ができないことがありますし、時間が経つことでより良いアイデアに変わることがあるので、少し熱を冷ましてから、改めて検討をします。

ここまでくると、クライアントに見ていただくための準備が整います。プレゼンテーションを経て、了解をいただくことが出来れば基本設計が完了して次のステップ(実施設計)に進みます。実施設計では、実施設計のこだわりポイントがありますが、それはまた別の機会にしたいと思います。

建築家との家づくりはどうして時間が掛かるのか?
一般的にも良く聞かれる質問です。

当事者からすると、無駄に時間を使っている訳ではないですし、わざと時間を掛けているということもありません。どんなことでも同じだと思いますが、時間を掛ける(時間が掛かる)ということはコストが掛かることとイコールです。そこは常に意識しています。

では、自己満足のためにやっているのでしょうか?そんなこともありません。数多くいる建築家や設計事務所の中から私を選んで設計を依頼してくださった、その想いに感謝をして、クライアントの期待に応えたいと思っています。住宅をつくるためにお金を出すのはクライアントです。その住宅に住むのもクライアントです。クライアントのための住宅ということをしっかりと意識して間違えないようにしたいと思っています。

先に書いたように、自分でも気が遠くなるようなことを繰り返しながらスタートから繋がっているはずのゴールを探しています。時には、本当にこのプランニングで良いのかと自問自答をしながら、幾つものアイデアを作っては壊し、また作るということをしています。設計はこのような感じで進んでいきますのでどうしても時間が掛かってしまいます。それでも、住まいが完成してクライアントが楽しそうに暮らしている姿が私の脳内には見えているので、それを実現するために設計を続けています。

ここまで設計の方法を書いてきました。建築家に共通する一般的と言える方法もありますし、私独自の手法もあると思います。設計したものはクライアントと共有して、クライアントの同意を得て、はじめて実現します。考えたことを実現するにはクライアントの理解や共感を得ることがとても大切です。理解を得るためには、様々な側面から検討をして納得してもらえる提案であること、さらに共感を得られることが必要だと思います。その結果として豊かな暮らしにつながる建築空間が生み出されると考えています。

今回は、いつもとは違った視点と内容で書きました。ひとりの建築家がどんなことを考えて設計をしているのか、少しでもご理解いただけると嬉しく思います。また、ひとりでも多くの方に建築家と一緒に注文住宅を建てることを楽しんで頂きたいと願っています。

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第6回「内向的な空間をつくる」

これから家づくりをする方や家づくりを考え始めようとしている方に向けて、このブログの中で不定期に連載をしていこうと思います。
個別のテーマはその都度変わりますが、連載のタイトルは『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』として、これまでの設計事例の中からテーマに合わせて新築、リノベーションにとらわれず事例をご紹介しながら、毎回「丁度いい」暮らしや住まいとはどのようなことなのかを探っていきたいと思います。
丁度いい暮らしを生み出すための設計の工夫や考えたこと、クライアントの要望にどのように応えてきたのか、その他、個人的な想いなども書いていきたいと思っていますので是非お付き合いください。

6回目になりました。今回は「内向的な空間」について書いてみたいと思います。私自身が自分の設計が内向的だと感じていることもあり、今までの設計事例を振り返ることで、自分の設計を掘り下げながら、私が考えていることを記してみたいと思います。

「内向的な空間」というのは文字通り、ウチに向かっている空間ということです。ウチに向かうとは、環境面で考えた時には外と内の対比によって現れる内部空間のことであり、人に注目すると心のウチ側という意味でもあります。


建築を計画する時には必ず周辺環境が存在します。土地に新たに建てる新築住宅でも、既存マンションの一住戸のリノベーションでも必ず周辺の環境があります。その環境を観察することで、これから生まれる建築空間の拠り所が見えてくることがあります。積極的に関わったり、取り込んだりすることもあれば、できるだけ意識しない、関わらないようにすることもあります。いづれの場合も私だけで決めることはなく、クライアントの生活に対する考えを理解して最適解を導きだすようにしています。どのような場合でも意識しているのは、必ずポジティブなつくり方をしたいということです。少し抽象的ですので具体的な事例をご紹介しながら補足していきます。


横浜市内に建つ戸建て住宅の事例です。写真は2階にあるダイニングからリビングを見ています。リビングの先には屋根と壁で覆われたテラスがあります。テラスの外側にどのような環境が広がっているのかは直接は見えませんが、テラスの壁と屋根には開口(外とつながる穴)があるので光を感じることができます。時間や季節、天候によって光の量や色合いが変わるので、いつ見ても違う表情をしています。この住宅は周辺環境に依り、外に対して閉じる必要がありました。閉じてはいるものの、外部と良い関わりを築くことで、ウチ側にある空間がより豊かになるようなつくり方をしたいと思いました。


次は先ほどの写真の反対側から、リビング越しにダイニングを見ています。ダイニングに設けた窓は南を向いていますが、敢えて細長い窓にしています。南側であれば大きな窓を設けるのが一般的で普通の考え方かもしれませんが、ここでは、そのようにはしませんでした。窓の外にはお隣の家がありますし、窓もついています。お互いに気持ち良く暮らしていくには必ずしも大きな窓は必要ないということです。一般的な常識や普通という言葉に無意識に流されるのではなく、一旦立ち止まって考えることが必要だと思っています。ここでは周辺環境から窓を小さくしていますが、暗くなり過ぎないように注意をして設計しました。建築は色々な要素が複合的に関係しながら形づくられています。設計する時に予め様々なことを想定することで理想とする状況をつくり出すことができると思います。

まずはじめに、環境面で考えた時の内側に向かう建築空間について触れました。次は人の心のウチ側に向かっていくような建築空間について考えてみたいと思います。

写真は小平市内に建つ戸建て住宅の玄関です。吹抜けになった玄関ホールに階段が隣接しています。玄関の上部には窓を設けることで光による明るさが降ってきます。玄関に入った時には頭上に光を感じることになります。朝は仕事や学校に出かけるため、慌ただしく出ていき、夜は一日の終わりを感じつつ、ほっとしながら玄関扉を開けて我が家に帰ってくる、玄関は暮らしの中で心のスイッチが切り替わる大切なポイントのように感じています。その大切な場所に、ふとした瞬間に非日常を感じられる仕掛けをひっそりと忍ばせています。


先の事例と同じように玄関の上部から光が降ってくるイメージで設計しました。慌ただしい日常の中で感じる、ふとした瞬間の非日常を大切にしたいと考えています。

何となく崇高に感じられたり、神聖な雰囲気があると、何かがありそうな特別な印象を受けることがあります。あくまでも日常生活を営む住まいではありますが、日常の中で非日常を感じる一瞬があることで、大切でかけがえのないものに変わっていくのではないかと思っています。

次は環境面から、外に対するウチの空間をつくることで、その空間が人の心のウチ側に作用することを意識した事例です。

川崎市内に建つ戸建て住宅の2階の写真です。周辺は比較的同じサイズの敷地が並んでいて、同じような大きさの住宅が建ち並んでいます。隣家の視線を遮り、自分たちだけの景色と光を手に入れるために目線には壁を立ち上げ、高窓が連なるように設計しました。高窓にしたことで南側に建つお隣の窓は全く見えず、視線を感じることもありません。昼間は光をふんだんに感じ、夜にはこの窓から星空を眺めることができます。周辺環境を観察することから導き出された内部空間を通して、人の心のウチ側に向かっていくような設えになりました。

ここまで注文住宅の事例を見てきました。
ここからは続けてリノベーションの事例をご紹介します。

リノベーションの場合は周辺環境は既に決まってしまっていることがほとんどです。そこにある環境をあるものとして受け入れて、観察して、関係をつくりだすようにしています。外と内の関係に直接的に関わってくることのひとつに窓があります。窓は周辺環境と同様に触れることが出来ない部分です。私の場合、窓の内側に障子を設けて外との関係を自由に調整できるようにすることが多いです。外を見たくない時(見せたくない時)は障子を閉めて室内空間(ウチ側の空間)を完結できるようにしています。外の情景が障子に映し出されたり、障子にあたった光が淡く白い発光面になるので、距離の感覚が曖昧になり、独特の空気感を生み出すことが人の心に作用するように感じています。

ひとつの例として障子という素材を取り上げましたが、他にも壁の配置の仕方や室と室の繋がりによっても内向的な空間をつくることができます。

ここまで内向的な空間について実際の事例を振り返りながら、どのようなことを考えて設計をしているのかを記してみました。

私が内向的な空間をつくるには理由があります。それはこんな想いからです。

家にいる時間が豊かに感じられて、暮らしに彩りを与えるような住まいにしたいという考えが根底にあります。豊かさとは、モノよりも人の心や感情に大きく関わっていると思います。住まいという暮らしの器が人に作用することで、何気ない日常の情景が美しく感じられたり、ふとした光景に感動したり、満たされているという充足感を味わえるのではないでしょうか。豊かさをつくるには、住まいのウチ側に向かっていくことと、人の心のウチ側に向かっていくことの両方が欠かせないと思います。こんな想いで家づくりをした結果が内向的な空間につながっているのではないかと考えています。

私の理想の家族像や理想の家庭のイメージを反映しているということもあるのかもしれませんが、私に設計のご依頼をしてくださるクライアントの皆さんは、その理想と違和感のない素敵なご家族がほとんどなので、無理矢理おしつけるようなこともなく、自然と導かれるように家づくりをしてきました。

ここに記した事はクライアントから直接リクエストされたことだけではありません。クライアントの要望をヒントにしながら、対話を通して形づくられています。プレゼンテーションや家づくりの過程ではこと細かに解説することをしていないかもしれませんが、クライアントの想いとは大きく外れていないと思っています。

先に書いたことからも、ご理解いただけると思いますが、家づくりをする上で、建築家とクライントの相性はとても大切です。両者が同じ方向を目指していないと、丁度いい住まいをつくることはできません。私自身もクライアントとの相性は、最も重視していることのひとつです。皆さんも是非、相性のよい建築家と出会い、丁度いい暮らしと住まいを手にしてください。

今回取り上げた事例は内向的な空間のつくり方のごく一部です。クライアントの数だけ住まいのバリエーションがありますし、その数だけ内向的な空間のつくり方があると思います。幾つもの可能性の中から「丁度いい」を見つけ出すのは大変ではありますが、ご自分にとっての「内向的な空間」を想像して頂き、ご自身にとっての「丁度いい」方法を見つけ出して頂ければ幸いです。

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第5回「第一印象の良い住まい」

これから家づくりをする方や家づくりを考え始めようとしている方に向けて、このブログの中で不定期に連載をしていこうと思います。
個別のテーマはその都度変わりますが、連載のタイトルは『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』として、これまでの設計事例の中からテーマに合わせて新築、リノベーションにとらわれず事例をご紹介しながら、毎回「丁度いい」暮らしや住まいとはどのようなことなのかを探っていきたいと思います。
丁度いい暮らしを生み出すための設計の工夫や考えたこと、クライアントの要望にどのように応えてきたのか、その他、個人的な想いなども書いていきたいと思っていますので是非お付き合いください。

5回目です。今回は住まいの「第一印象」について私が日頃考えて、実践していることを中心に事例を用いてご紹介しながら「第一印象の良い住まい」のつくり方を探っていきたいと思います。

第一印象が良いというのは戸建て住宅はもちろん、リノベーションであっても大切なことだと思っています。戸建て住宅は街の中に建っていることが多いため、外からおおよその外観を見ることが出来ます。一部、敷地や周辺住宅の状況により見えにくいことはありますが、むしろそのようなケースにおいても第一印象を良くする方法があると思います。またリノベーションの場合は建物の外観や共用エントランスは手をつけることが出来ませんので玄関の扉を開けた、その瞬間の印象が大切になってくると思います。

では第一印象が良いと、どんないいことがあるのでしょうか。戸建て住宅の場合は周辺の街並みに合っていて違和感がないとか、家の前を通る人が素敵な家を見ることを楽しみにしているとか、社会の一員として少しでも貢献することが出来るでしょう。これはとても大切なことだと思います。一方で社会や他人に対すること以上にクライアント自身に良い効果が表れることがいいことだと思います。注文住宅で住まいをつくる場合にはそれなりに時間が掛かります(リノベーションであっても同様です)。この間、クライアントは建築家と一緒に様々なことを考えながら、少しづつ前に進んでいきます。その結果、自分の目の前にマイホームが出現するのです。この気持ちの高揚と充実した感覚は、ことばでは言い表せないものではないでしょうか。自分の家を見るたびに、この気持ちが沸き上がってくるのです。リノベーションの場合も同様です。玄関扉を開けるたびに今までの記憶がよみがえり、気持ちが高揚することでしょう(羨ましいです)。訪ねてきた人が玄関を開けた瞬間に「うわぁ~」という歓声をあげてくれることもあるかもしれませんが、あくまでもご本人やご家族のために第一印象の良い住まいを考えています。

それでは、具体的に今までの実例をご覧ください。
最初は戸建て住宅からご紹介していきます。

それでは、具体的に今までの実例をご紹介していきます。写真は横浜市内に建つ戸建て住宅です。最寄駅から歩いてくると写真のような姿が見えてきます。道路からは少し高い位置に建っていますが、もともとの土地の形状を活かして建物を配置し、アプローチを考えたためです。窓の数は多くはないので壁の印象が強い外観です。壁は茶色に近いグレーの吹き付け材で仕上げられており、玄関扉や2階の一部に木がアクセントのように用いられています。

外観を整える時に大切にしているのは「面の中に間をつくること」です。要素が多すぎると見た目がうるさくなってしまいますので、控えめに、品のある表情となるように心掛けています。もちろん重視しているのは室内空間が充実しているということなので、外観はあくまでも整えるという意識です。

旗竿地のような、外観が見えるという点では不利な条件の場合でも同じです。こちらは旗竿敷地に建っている戸建て住宅の事例です。道路とは幅2mほどの長さだけが接している路地状の部分とその奥が広がっているような形の土地を旗竿地と言います。この住宅はそんな旗竿地に計画しました。旗竿地の場合、道路側から建物を見ようとしてもその姿は少ししか見えません。その少しだけ見える状況を活かすような、整っていて美しい顔が見えているような第一印象の住まいをつくりたいと思いました。

この土地の最大の特徴は(道路から見ると)裏手となる、お隣の土地に緑地が広がっていたことです。設計のテーマはこの緑地の緑と敷地内に新たに植える緑が一体的につながっていき、その様子を楽しめるというものでした。そんなこともあり、室内に入ると裏の土地の緑を思いっきり感じられるように建物の配置と室内空間の構成を考えました。

建物の外観から受ける第一印象と室内に入った時に感じる第二の印象を同時に考えながらつくるイメージです。第一印象は、先の事例と同様にあくまでも室内空間からつくっていき、その結果として外観が生まれています。その際、外観は第二の印象につながるように、裏の緑地の様子が見えないことを意識しながらアプローチやエントランスをつくり、道路から見える印象が良くなるように建物自体の大きさや窓の配置を整えました。室内空間は1階と2階のそれぞれに大きな窓を設けることで緑を身近に感じつつ、異なる印象を受けるように考えています。

戸建て住宅の外観には窓や玄関などの扉、バルコニーや屋根、付属物などが表れます。私は建物の外観とは室内のつくり方の結果の表れだと考えています。室内は暮らしの様々な要素が複雑に絡み合いながらつくられています。窓ひとつ設けるのにも方位や周辺の環境などを色々と考慮して、配置する場所と大きさを決めています。そのような一つひとつに意味のある行為の結果が外観に表れているのですが、内部の要求をそのまま素直にあらわしてしまうと乱れた印象になったり、ぶっきらぼうになってしまったり、うるさく感じることがあります。そのため、室内を考えている時も常に外観の様子を想像しながら、ある程度、整って見えるように気を配りながら設計をしています。

冒頭に触れたようにリノベーションの場合は、建物の外観や共用エントランスではなく、自分の家の玄関扉を開けた瞬間の第一印象をどのようにつくり出すかを一生懸命考えています。当たり前のことですが、リノベーション後の住まいが良いということが大前提です。その上で玄関扉を開けた時の第一印象が良かったら嬉しいですよね。私はそのようなリノベーション空間をつくりたいと思って設計をしています。

「第一印象をつくる」ということを考えた原点のような事例です。このリノベーションの設計を通して、この後に手掛けた幾つかの設計の考え方につながっていきました。

玄関扉を開けると上の写真のような光景が目に入ってきます。玄関の土間が突き当りの壁まで一直線に伸びていき、視線を奥に導きます。左手は木の扉によって塞がれていてどのようになっているのか分かりませんが、奥の方には光が差しているので窓があるのかなと想像が膨らみます。見えないということが空間を無限に広く感じさせる心理的な効果があることに気づかされます。この事例以降、視覚効果や心理的な効果を利用して様々な事例に応用しています。

こちらも、リノベーションの玄関の例です。以下、色々な事例の玄関の写真を並べてみました。

どの事例も玄関扉を開けると広がっている光景です。いかがでしょうか。こうしてこれまでの事例を続けて見てみると常に第一印象を良くすることを考えているのが自分でも分かります。

ここまで第一印象について実際の事例でご紹介してきました。戸建て住宅とリノベーションの設計では具体的な手法に違いがありますが、その元にある考え方は同じです。

戸建て住宅の場合、住まいをつくる上で比重が大きいのは室内空間のつくり方だと思います。温熱環境の面で快適であること、居心地が良いこと、使い勝手が良いこと、デザインが良いことなどなど。人によって考え方が違いますし、重視する点も違うと思います。私は室内空間を考えながら、同時に外観のことも気にしています。室内空間も外観も、全てがバランス良く決まるポイントを探りながら設計をしています。リノベーションであっても玄関扉を開けた印象だけが良くては本末転倒です。室内空間がしっかりとつくられた上で印象が良くなければ意味がありません。室内空間だけがよければ良いという訳ではありませんし、外観が良ければいいなどとは思いません。どちらもバランスがとても大切だと思っています。このバランスのとれた住まいができることが、クライアント個人の喜びを超えて、周りや、社会に貢献することにもつながるのではないかと思っています。

今回取り上げた事例は「第一印象の良い住まいのつくり方」のごくごく一部です。クライアントの数だけ住まいのバリエーションがありますし、その数だけ第一印象の良い住まいのつくり方があると思います。そのため、ある方にとってはしっくりくる場合でも、別の方にとってはそうではないこともあると思います。是非、ご自分にとっての「第一印象の良い住まいのつくり方」を想像してみて頂き、ご自身にとっての「丁度いい」方法を見つけ出して頂ければ幸いです。

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第4回「キッチンのつくり方」

これから家づくりをする方や家づくりを考え始めようとしている方に向けて、このブログの中で不定期に連載をしていこうと思います。
個別のテーマはその都度変わりますが、連載のタイトルは『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』として、これまでの設計事例の中からテーマに合わせて新築、リノベーションにとらわれず事例をご紹介しながら、毎回「丁度いい」暮らしや住まいとはどのようなことなのかを探っていきたいと思います。
丁度いい暮らしを生み出すための設計の工夫や考えたこと、クライアントの要望にどのように応えてきたのか、その他、個人的な想いなども書いていきたいと思っていますので是非お付き合いください。

4回目の今回は「キッチンのつくり方」をテーマにキッチンとその周辺について探りたいと思います。

キッチンには色々な配置の仕方と形態があります。分かりやすい例はアイランドキッチンだと思います。壁から離れて単独に存在する形態のキッチンカウンターです。アイランドキッチンに憧れていると言う方も多いかもしれません。キッチンの形態にはそれぞれ特徴があり、どんな場所にもアイランドキッチンが適している訳ではありません。私はキッチンについて考える時に、キッチン単独で考えることはしないようにしています。キッチンだけがその場に存在することはなく、必ず空間の中に配置されています。どのような空間でもその空間の中で最も適したキッチンの形態があるはずです。空間の大きさや広さ、家族の生活習慣や振る舞いなどにも依る所が大きいと思います。使い勝手の良いキッチンはその空間に違和感なく溶け込んでいることが多く、キッチンの配置や形態には様々なことが関係し合うので十分に考慮する必要があると思っています。それでは具体的にどんなキッチンがあるのか見ていきましょう。

最初は壁に向かって配置したキッチンの事例です。写真は戸建て住宅の2階にある一列型の壁付けキッチンです。約16.5帖のリビング・ダイニングと一体の空間に配置しています。広さを数字でみるとコンパクトに感じるかもしれません。広さに制限がある場合にはキッチンカウンターや冷蔵庫、家電など大きなものやかさばるものは壁際に寄せて設置することで空間が広く感じられます。この住宅でも壁際にキッチンカウンターを配置して、その横に冷蔵庫のスペース、更に横に家電収納と食品のストックをしておく収納棚を設えました。壁付けキッチンの良いところは省スペースであることに加えて動作の距離が短く済むことです。基本的な移動は横移動ですし、背面にダイニングテーブルを配置すれば、振り返るだけの動作で済んでしまいます。

キッチンカウンターの長さは2.7mです。私が設計するキッチンの中では標準的な大きさです。キッチンの使い勝手はひとそれぞれですが特別なご希望がない場合やまずは提案して欲しいと言われた場合にはこれくらいの大きさにすることが多いです。ガスコンロとシンクのみのシンプルな造りですが、家具工事によるオリジナルの造作キッチンです。

次も同様に一列型の壁付けキッチンの事例です。壁付けタイプの欠点はキッチンがダイニングやリビングから丸見えになってしまうことです。片づけが苦にならない方にはお薦めできますし、むしろお気に入りの食器を飾りたい方はこの方法が良いと思います。この住宅では吊戸棚は設けず、オープンの棚板に食器などが並びます。冷蔵庫の左横のグレーの部分は開き扉になっていて、食品のストックをいれておく食品庫になっています。その下のスペースにはゴミ箱が納まります。このキッチンはサンワカンパニーのグリッド45というシリーズをクライアントのご希望で採用しました。長さが2.4mあるステンレスキッチンです。このステンレスとの相性を考慮して壁の色やタイル、食品庫の扉の色をグレーにしました。天井面に現したコンクリートの梁とのバランスも意識しています。色味を合わせることで壁面全体が統一感のある印象にまとまっているのを感じていただけると思います。キッチン単体ではなく、その周辺を一緒に考えることが大切です。


この事例は、二世帯住宅の子世帯のキッチンです。やはり壁付けの一列型のキッチンです。家具工事による造作キッチンで2.7mあります。設備機器はご希望に合わせて設置していますが、ここでは食洗機がついています。キッチンと隣接する位置(写真左側の空間)に2帖強のパントリーを設えました。

パントリーには、冷蔵庫や食器棚を収納する他、小さな窓と小さなカウンターをつくり付けて家事スペースをつくりました。僅かな空間ですが、奥さんが籠れる、こういう場所があると家事がグッと楽になると思います。

続いては、独立タイプのキッチンです。ダイニングやリビングに隣接していますが空間としてはキッチンを別にした事例をご紹介します。形態は今までの壁付け一列型と近いですが空間の繋がり方が変わるので振る舞いは違ってきます。戸建て住宅の2階に配置したキッチンです。奥さんのご希望でダイニングの隣に独立したキッチンを設えました。キッチンは一列型の壁付けキッチン(2.7m)、背面には3枚の引戸のある食器棚を設え、同一空間にパントリーもあります。コンロはご希望でIHを採用しました。ダイニングとの間には引戸を設けているので、扉を閉めることで完全な個室にもなります。例えば、急な来客があった時でも扉を閉めてしまえばキッチンが見えることはありません。

こちらの事例も独立タイプのキッチンです。リノベーションの住まいの事例です。リノベーションの場合は間取りの制約により、キッチンの配置が決まってしまうことが多くあります。この住宅でもリノベーション前と同じ場所にキッチンを配置していますが、配置を変えなくても使い勝手や印象をより良くすることが出来ます。ここでは使い勝手を考慮してキッチンの背面にカウンター式の収納を設け、並んだ位置に以前から所有していた箪笥(食器棚)の置き場所を設けました。キッチンは家具工事による造作で、背面カウンターは大工工事による造作です。ガスコンロとガスオーブンを設置しています。

ここでは使い勝手を考慮してキッチンの背面にカウンター式の収納を設け、並んだ位置に以前から所有していた箪笥(食器棚)の置き場所を設けました。キッチンは家具工事による造作で、背面カウンターは大工工事による造作です。ガスコンロとガスオーブンを設置しています。

同じくマンションリノベーションの事例です。この住宅も独立した空間に一列型の壁付けキッチンと背面カウンターを組み合わせました。背面カウンターの上部には棚を設けて、収納量を確保しています。カウンターの一部は下向きに可動することで、バルコニーに面したガラス扉から直接外に出ることも出来ます。


ダイニングに隣接するように配置したキッチンを通り抜けることで寝室にダイレクトに入ることができます。リノベーションの場合は既存の状況により制約を受けることがありますが、その制約を逆手にとることで新築にはない使い勝手を生み出すことができます。

こちらもマンションリノベーションの事例です。ダイニングの横に半分閉じた(少しだけ開いた)設えのキッチンをつくりました。キッチンはコの字型とすることでまるでコックピットのようなつくりになっています。中心に立つとどこへも半歩程度の移動で手が届き、体を回転することで作業が完結するキッチンとしました。キッチンとダイニングを隔てるカウンターは多機能なつくりとなっており、上も下も効率的に余すところなく収納として使用しています。キッチン側はオープンな収納棚になっていて、下部にはゴミ箱のスペースもあります。ダイニング側は開き扉で隠していますが、扉の中には様々なものが収納できるように、収納するものに合わせて奥行を変えた収納スペースになっています。


この多機能なカウンターがあることでダイニングからキッチンが丸見えになることがありません。キッチンで作業をする様子だけがチラッと見えるようなつくりなので、料理中に手元が散らかっていても安心です。このように色々な試みが凝縮したキッチンですが、これもリノベーションならではの制約とコンパクトな空間だったことから生まれています。

続いてアイランドキッチン、二列型のキッチンの事例です。家具工事の造作による二列型のキッチンです。シンクのあるカウンターはダイニング側に向かって配置しているので、食器を洗う時にも家族の様子を見ることができ、常に一体感が感じられます。


キッチンカウンターが二列になることで物理的に長く広くなるので作業に使えるスペースが増えます。広さが必要な調理をする時やお子さんと一緒に料理をする際にもストレスがありません。この住宅ではシンク側とコンロ側のカウンターの高さを意図的に5cmほど変えています。造作キッチンの場合、高さや長さは自由につくることができるので、細かな対応が可能になります。さらにキッチンの横には約2.5帖のパントリーを設けています。食器や食品のストックの他、ワインセラーや家電が設置できるように電源を確保しています。


同じく二列型のキッチンの事例です。コンロのある側は壁付けで約3.1m、シンクのあるカウンターは約1.5m。どちらのカウンターも大工工事による造作です。大工さんに造作してもらう場合は家具工事ほどの施工精度が出にくいので、大工さんがつくりやすい材料の選定とデザインが不可欠です。

この事例では、ラワン合板とラワンランバーを使用して、オープンな棚にすることで収納量を確保できるキッチンとしました。壁付けカウンターの上部にもオープンな収納をつくり付けていて、その一部にはエアコンを設置して幕板で目隠ししています。


次は(二列型)アイランドキッチンの事例です。コンロのあるカウンターは壁付けで約3.4m、シンクのあるカウンターは独立したアイランドタイプで1.8mあります。キッチンメーカーによる造作で、オーブンと食洗機が入っています。これだけ大きいと存在感がありますが、ダイニングキッチンの広さから考えると違和感のない大きさです。キッチンが配置される空間の大きさに合ったキッチンカウンターとすることが大切です。正面のアーチの空間(上の写真)は約3帖のパントリーです。パントリーの中には十分な収納量を確保したオープンな棚とパソコン作業などができるカウンターを設えました。勝手口もついていて、玄関横のテラスから直接外に出られます。

ここまで色々なキッチンの事例を見てきましたが、キッチンのつくり方には家具工事による造作や大工工事による造作、システムキッチンやメーカーによる既製品などの種類があります。どれが良いかはクライアントの好みによるところがありますが、私にゆだねていただける場合には、全体のコストを考慮しながら最適な方法を提案しています。
一般的には造作キッチンは高いと思われていますし、クライアントにも毎回聞かれることですが、必ずしも造作が高いということはないと思います。正しいデザインで、正しくつくれば極端に高くなることはないと考えています。そのため、私が設計する場合は、(クライアントの希望を伺いながら)造作キッチンをおすすめしています。
造作する良さは幾つもあります。大きさや高さはクライアントの身長や動作に合わせることができますし、扉の開閉方法も、引き出しなのか開き扉なのか引戸なのかを、自由に決められます。そもそも、扉をつけずにオープンな棚にすることも可能です。設備機器はもちろん好きなものを入れられますし、仕上げの面材も自由に選べます。キッチンは機能性が大切ですが、空間の中での存在感が大きいので、その見え方も大切にしたいと考えています。面材を選べると建物全体の雰囲気に合わせたり、イメージを統一することができるので、その空間の中に違和感なく溶け込むキッチンをつくることができます。

キッチンのあり方はひとによってそれぞれの考えがあり、その考えが大きく反映されると感じます。使い勝手や機能性、生活上の習慣や動作寸法などの他にも、クライアントの理想とする想いがあり、生活の中での使用頻度が高い場所でもあるので自分にあったキッチンのあり方やその周辺について考えることは家づくりを考える上でも重要です。
キッチンは暮らしと住まいが一体となった場所だと思いますので丁度いいキッチンのあり方を考えることは丁度いい暮らしと住まいを考えるきっかけになるのではないかと思います。一方でキッチンだけでは暮らしや住まいは成り立たないので、キッチンから考えはじめてその周辺や住まい全体に考えを巡らせていただけると良いと思います。

今回取り上げた事例はキッチンのあり方のごく一部です。クライアントの数だけキッチンのバリエーションがあると言っても良いと思います。そのため、ある方にとっては丁度いい場合でも、別の方にとってはそうではないことはあると思います。「丁度いい」は奥深く、人それぞれです。是非、皆さんにとっての「丁度いい」を想像してみてください。

次回以降も続きますので、よろしくお願いします。

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第3回「あいだの空間が大切」

これから家づくりをする方や家づくりを考え始めようとしている方に向けて、このブログの中で不定期に連載をしていこうと思います。
個別のテーマはその都度変わりますが、連載のタイトルは『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』として、これまでの設計事例の中からテーマに合わせて新築、リノベーションにとらわれず事例をご紹介しながら、毎回「丁度いい」暮らしや住まいとはどのようなことなのかを探っていきたいと思います。
丁度いい暮らしを生み出すための設計の工夫や考えたこと、クライアントの要望にどのように応えてきたのか、その他、個人的な想いなども書いていきたいと思っていますので是非お付き合いください。

3回目は「あいだの空間」をテーマにあいだの空間があることでどんな効果があるのかを探りたいと思います。

あいだの空間とは建築的には「中間領域」などと言いますが、内部と外部の中間的な場所がその代表的な例だと思います。ここではその中間的な場所、あいだの空間の範囲をしぼったり、ひろげたりしながら様々な事例を用いてご紹介していきたいと思います。内部と外部の中間的な場所とひと言で言っても性質によって幾つかの種類に分けることができます。「内部的な外、外部的な内、限りなく内部の外、限りなく外部の内、内部の延長としての外、外部の延長としての内」などが思い浮かびます。それぞれはその環境や設え方で印象が変わります。それでは具体的に見ていきましょう。


最初は戸建て住宅の事例です。写真は1階の寝室から外にあるテラスを見ています。寝室に隣り合う形で設けた畳2.5帖ほどのテラスです。上部は屋根で覆われ、一部壁でも囲われています。比較的オープンではありますが屋根と壁に囲われていることで安心感があります。内部の延長としての外と言えます。この場所が生まれた経緯は、共働きのご夫婦から雨に濡れずに洗濯物を干しておけるスペースが欲しいという要望を受けたことから始まります。せっかくなので庭に植えた植栽をまじかに感じ、暖かな太陽の陽にあたりながらくつろぐことができる場にもなればと思い、この場所が生まれました。壁があるのは、上に載っている2階を支える構造の役割もありますが、この壁があることでの安心感と周囲から見られている感覚を減らすことを考えて設けています。


続いて内部的な外の事例です。2階にあるダイニングに連続するように設けたテラスです。

テラス全体を屋根が覆い、一部は壁で囲まれています。室内のように使うことを想定していますがあくまでも外です。この空間の良いところは、テラスに椅子を持ち出してゆったりとした時間を楽しんだり、本を読んだり、珈琲を飲んだり、外の空気や風に吹かれる時間がもてることだと思います。他には、テラスに隣接したダイニングの窓に雨が直接あたることはあまりないので、雨の日でも窓を開けておくことが出来るのも良い点です。そういう意味では内部の延長としての外と捉えることもできると思います。

こちらは、1階にある玄関土間の写真です。旗竿敷地の所謂「竿」の部分にアプローチがあり、そのアプローチ(外部)の延長に玄関を設けています。外部の延長としての内または外部的な内の空間です。外部的と言っているのは床仕上げがモルタルの土間だからだけではありません。玄関の引戸を開けるとアプローチと一体になり、同じく引戸の勝手口を開けると外へと繋がっていく、アプローチという外の空間が家の中まで続いて、通り抜けていく感覚が外部的だと思います。また、外と内の床の高さの関係性も大切な要素です。この事例のアプローチと玄関土間はほとんど段差がないように見えます。実際には雨や水が玄関に入り込まないようにしなければいけないので段差を設けていますが、その段差がないように見せるというつくり方が大切だと思います。その空間に求められている要望や機能を満足させるために、どういう場所であるかを考え、どのような機能が必要であるかを考え、そのためにはどう見えるのが良いかを考え、全てが合理的にまとまるような方法を模索しながら設計を繰り返しています。

同じように外部の要素を内に引き込むことで内部と外部が繋がるという事例です。内と外はガラス窓で仕切られていますが視線が抜けることで繋がっているように感じられます。室内の床仕上げと外のテラスの仕上げを茶色の木とすることで(同じではないですが)似た雰囲気の場が繋がるようにしています。室内の上空は屋根まで吹抜けることで外のような開放的な場所になることを意図しました。


もうひとつ、外部を引込み外部の延長としての内のように設えたマンションリノベーションの事例をご紹介します。細長い玄関ホールが奥まで続いています。床には大谷石を敷き、外との段差はほとんどなく、土足で突き当りまで進んでいきます。ここでは石という素材を通して感じる感覚と土足で歩くという行為により、外部のような設えを実現しました。

同じくマンションリノベーションの事例です。この住宅は玄関がモルタルの土間になっています。L字に配された土間が奥にあるリビングまで繋がっています。これは、来客を直接リビングに招きたいというクライアントの要望を受けて考えました。この住宅の来訪者は玄関扉を開けて一度室内に入ります。そこは外と内の中間のような、外が続いているような土間空間です。土足のまま奥へと進んでいき、突き当りの扉を開けるとリビングが表れるというつくりになっています。土間空間がより外部の延長として感じられるように土間と室の間の壁はあえて合板を桟木で押えただけという質素なつくり方をして、つくり込まれた内部ではなく、より外に近い感覚が得られるように設えました。

このようにマンションリノベーションであっても設え方によって、中間的なあいだの空間をつくることが出来ると思います。

こちらは、2階にテラスを設けた二世帯住宅の事例です。このテラスはくつろぐ場所というよりも洗濯物を干すことが主用途のテラスです。そのため、ランドリースペースと名付けた洗濯室に隣接するように配置することでコンパクトな動線となるように配慮しています。主用途が洗濯物干しなので雨の日でも外に干すことが出来るように屋根で覆い、壁で囲んでいます。屋根と壁で囲むことにより周囲からの視線を遮ることができるので気兼ねがない一方で暗くなりがちです。そこでここでは天窓を設けました。外部なのに天窓を設けるのは不思議な感じがするかもしれませんがとても良い方法だと思います。外だから窓を設けてはいけないということはないのです。折角なので、このテラスに接する寝室にも天窓からの明かりが入るようにプランニングを工夫しました。常に一石二鳥や一石三鳥になるように考えています。

上記と同じように内部的な外という事例です。2階建ての2階部分にキッチンとダイニング・リビングを配置した戸建て住宅です。そのリビングに接するように大きなテラスを設けました。このテラスは屋根で覆い、壁で囲んでいます。一部屋根と壁に開口があり、外と繋がっています。この開口からは雨も風も入ってきますので完全に外なのですが、考え方としてはリビングの延長の空間なので内ということになります。そもそもなぜ壁で覆っているのか、これまでと同様に幾つかの理由があります。テラスは建物の北側に配置しています。道路を挟んだ向かい側には3階建てのマンションが建っていて、こちらに対面するようにバルコニーが並んでいます。道路があるので少しは距離があるものの、どうしても視線は気になるので周囲の視線を遮るために壁で囲みました。外部に対して壁の印象が強くなるので外観のデザインを整えることにもつながります。テラスとリビングの間に木製サッシを使っているので雨が掛かりにくい方がよいという機能上の理由もあります。最も大切なことは生活していく上で室内とつながった外の空間があることで得らえる広がり、開放感だと思います。色々なことを同時に考え、合理的で情緒的な空間を生み出そうとした結果としてこのような空間が実現しています。

考えたことを実現するにはクライアントの理解を得ることが大切です。理解を得るためには、様々な側面から検討をして納得してもらえる提案でなければならず、共感を得られることが必要だと思います。その結果として豊かな暮らしにつながる建築空間が生み出されます。

建築は面積や長さ、高さなどの数字で表されることがあります。できるだけ数字に縛られず、数字では表現できない、感覚に訴えかける味わい深い建築空間をつくりたいと考えています。そのためにもあいだの空間(中間領域)が上手く作用するのではないでしょうか。

あいだの空間(中間領域)について考えることは奥が深く興味がつきません。あいだの空間(中間領域)を考えることで暮らしが豊かになり、あいだの空間(中間領域)があることで住まいのつくり方に奥行きが生まれると思います。

今回取り上げた事例はあいだの空間のつくり方のごく一部です。ある方にとっては丁度いい場合でも、別の方にとってはそうではないことはあると思います。「丁度いい」は奥深く、人それぞれです。是非、皆さんにとっての「丁度いい」を想像してみてください。

次回以降も続きますので、よろしくお願いします。

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第2回「吹抜けをつくる理由」

これから家づくりをする方や家づくりを考え始めようとしている方に向けて、このブログの中で不定期に連載をしていこうと思います。
個別のテーマはその都度変わりますが、連載のタイトルは『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』として、これまでの設計事例の中からテーマに合わせて新築、リノベーションにとらわれず事例をご紹介しながら、毎回「丁度いい」暮らしや住まいとはどのようなことなのかを探っていきたいと思います。
丁度いい暮らしを生み出すための設計の工夫や考えたこと、クライアントの要望にどのように応えてきたのか、その他、個人的な想いなども書いていきたいと思っていますので是非お付き合いください。

2回目の今回は「吹抜け」をテーマにして私が吹抜をつくる理由を考えることで吹抜けの良さを探ってみたいと思います。

吹抜けは階が複数になる際に上下をつなぐなどの目的で生まれる空間です。そのため、主に戸建て住宅に設けられることが多いです。マンションでもメゾネットの場合で条件が揃えば吹抜けを設けることができると思いますが私はまだ経験がなく、ここでは戸建て住宅の事例をご紹介していきます。


写真はダイニングからリビングスペースを見ています。リビングの上空を吹抜けとした事例です。
リビング(1階部分)は南と北に性格の違う庭を設けています。その庭に対して性格の違う開口部(窓)を設けました。この開口部を通してそれぞれの庭をつなぐように視線が抜けます。また窓は全開放できるので、開け放つと風が抜けていきます(網戸は設けてあります)。写真正面は西面ですが1階部分を壁とすることで隣家からの視線を遮り、同時にテレビを置いても背面が気にならないプレーンな壁面を用意しました。一方で吹抜け上空の2階部分には窓を設けて光を取り込む工夫をしています。西に向いた窓なので西日になりますが直接的なまぶしさはなく、明るさは十分に確保できるように窓の配置を工夫しています。吹抜けに絡め、方位を考慮して開口部を配置することで、風が通り抜け光が巡る空間になります。また、時間や季節を意識するきっかけにもなると考えています。


こちらの事例は、1階に設けた家族が集まるスペースです。
この住宅のリビングは2階にありますが、リビングとは別に家族が集まる場所として、図書室と名付けたスペースを設けました。壁面には造り付けの本棚を設え、実際に図書室のように使うことができます。その他、パソコン作業をしたり、お子さんが勉強をしたり、来客時の応接のスペースにもなる場所です。この図書室の上空を吹抜けとして2階のリビングやダイニングと立体的につながるようにしました。


階段室を兼ねることで1階から2階へ、2階から1階へ移動する際には常に視線が移り変わり、上下方向の変化が感じられるつくりになっています。その他、吹抜けの高い位置(2階の高さ)に設けた北側の窓により安定的な明るさを確保でき、外からの視線を気にすることなく集中できる場となりました。吹抜けにより、上下階のつながりが生まれることで姿が見えなくても家族それぞれがお互いの気配を感じることができるので安心感もあります。

この住宅の吹抜けは玄関ホールと一体になっています。
旗竿敷地の南側に道路から続く、所謂「竿」の部分があり、そのアプローチの延長に玄関を設けました。敷地も住宅自体もコンパクトなので、窮屈さを感じない、大らかな家にしようという思いから吹抜けを設けました。その吹抜けの位置が玄関ホールにあるのにはいくつかの理由があります。細い路地状のアプローチを通ることで少し体が縮こまっているところを、家の中に入ると上空に広がる大空間が表れ、パッと開放されるような感覚を味わうことができます。緊張と緩和のリズムを作るイメージです。さらに、この吹抜けに接するように階段を設けていますので、上下階への移動がよりダイナミックに感じられるつくりにしています。周囲を隣家に囲まれている状況ですが南側の2階部分から光が入ることが期待できたので吹抜けをつくり上空から光を取り込むことにしました。その際、敢えて2階部分は北側に後退(セットバック)させて隣家から引きをとることで距離が生まれ、より多くの光が南面から入る工夫をしました。このことは同時に2階からこの大きな窓を見たときにも隣家と距離があることでお隣の視線を軽減する効果があります。

この住宅では2階の吹抜けに面する場所にご主人の趣味のDJカウンターを設けたり、一部机になる場所も設けました。目の前に壁がなく、抜けていることで開放感を感じられる居心地の良さを生み出しています。同じように吹抜けに面してカウンターを設けた事例があります。


同じように吹抜けに面してカウンターを設けた事例があります。1階のリビングの上空を吹抜けにして、吹抜けに面した場所にカウンターを設けました。この場所はお子さんが勉強をしたり、背後にあるテラスから洗濯物を取り入れて畳んだりする多目的な場所です。やはり開放感があり、上下階がつながることで距離が離れていてもお互いの存在を感じるられることが特徴のひとつです。

別の事例です。この住宅は、玄関を抜けると写真のような屋根まで吹抜けた階段のあるホールに出ます。1階に個室と水廻りを配置し、2階にダイニング・キッチンとリビングがあります。
今までの事例と同じように1階と2階、2階ダイニング・キッチンと2階リビングがこの吹抜けを通して繋がります。繋がりながらも同時に吹抜けとしての間(ま)があることで、ほど良い距離を生み出してくれます。


室内環境的には1階、2階それぞれの南面に窓を設けて太陽の光を取り込んでいます。屋根面にも電動で開閉するトップライト(天窓)を設けることで光を取り入れると共に空気が流れる仕掛けを施しています。この吹抜けを通して視線が縦、横、斜めに交錯することで空間が層のように連なり、奥行を感じる効果が生まれます。

次の事例です。この住宅では、2ヶ所の吹抜けを設けました。玄関ホールと子供室の2ヶ所です。
玄関ホールに吹抜けを設けたのは、玄関扉を開けて中に入ると、近い距離に2階へ上がる階段が目に入ることが理由のひとつです。

奥行きを深くすることが難しかったので、目線の近い位置に階段の側板が存在しますが、上空を吹抜けとすることでその圧迫感を軽減しようと考えました。また吹抜けにすることで上空があくので、2階部分に大きな窓を設けました。1階から見上げると周囲の視線は気にならず、空が見えます。時間によって移り変わる太陽の動きに呼応して光と影の状態が常に変化します。このことが空間に奥行きを生み出す一つの役目を果たしていると思います。

実はこういう感覚的なことが家づくりにはとても大切だと思っているのですが、クライアントにご理解いただくのは思いのほか苦労することがあります。この住宅のクライアントは簡単にご理解くださったので、説明に苦労することはなかったのですが、人によっては理解しにくいことなのかもしれません。

もう1ヶ所の吹抜けは子供室に設けました。子供室に吹抜けを設けた理由もいくつかあります。ひとつは上下階の繋がりを生むためです。子供室の上(2階)はダイニングなどのパブリックな場所です。大人が上にいて、お子さんが下にいる時でも姿は直接見えませんが気配が分かり、音が聞こえやすいからです。もうひとつの理由は窓の外に広がる緑地の緑と広い空を眺める大きな窓を設けようと思ったことです。通常の窓はどんなに大きくても物理的に天井面までの高さまでになります。この住宅では窓際に設けた小さな吹抜けにより天井面の制約がなくなり、自由な高さに窓を配置することが出来ました。

この吹抜けと窓の考え方は個人的にとても気に入っています。この住宅の大きなテーマのひとつが隣地にある緑地の緑を感じる家にすることでした。緑を感じるのと同時に大きな空も魅力です。この状況を積極的に取り込むためにどんなことをすると効果があるのかを考えた結果、吹抜けを設けることに行きつきました。実際に吹抜けがなかったことを想像すると、今の方が視界も広く開放的で良かったと思います。このアイディアをクライアントに提案した時に、とても喜んで頂けたのですが、一方で違う懸念事項も出てきました。1階と2階が繋がっていて気配や音が聞こえることがメリットではあるのですが、お子さんが夜、大人よりも早く寝ようとした時に音が聞こえるので気になって眠れないとか、明かりが漏れてまぶしくて眠れないということが起こることです。このようなメリットとデメリットは相反することが多いので悩ましいです。この時は吹抜けが小さかったので可動式の蓋を設けることで解決しました。


普段、この蓋は壁の一部に収納されているのであまり意識することはありません。蓋に設けた手掛けを引くと90度回転して窓台にのっかる仕掛けになっています。ちょっとしたことですが、この蓋により懸念事項はなくなり、この効果的な吹抜けを実現することができました。

私はそれぞれの場所が単に機能的であれば良いとは思っていません。機能が疎かになるのは良いことではないので、機能を十分に満たした上でそれぞれの住まいにとってのベストな方法を毎回模索しています。そこに住む方は毎回違う方なので当たり前だと思いますが、幾つかのパターンから良さそうなものを当てはめるようなことはしません。吹抜けひとつとってもこのようなにアレコレと考えを巡らせてつくっています。

こうして幾つかの事例をみてみると、吹抜けのつくり方にも色々な方法があるということがお分かりいただけると思います。色々なつくり方があるのは、基本的には私のクライアントに対する想いや個人的な考え方が影響していると思います。共通しているのは「こういうものだ」とか「こうでなければいけない」という偏った常識にとらわれず、それぞれのクライアントに合ったつくり方や暮らし方があるので、そこを間違えないようにしたいということです。そして常に機能的で美しくありたいということです。

それにしてもほぼ全ての住宅に吹抜けを設けていました。吹抜けを設けなければいけないとは思っていないのですが、吹抜けを設けるのには理由があります。事例の中でご紹介したことを整理すると、光を取り込むためであったり光の状態を調整するため、視線のコントロールや上下移動の空間体験、気配や音が伝わることでの家族の一体感や開放感、空間の連続性や距離感の調整など様々です。そのどれもがクライアントの要望をもとに、クライアントのキャラクターや敷地の状況に合わせて吹抜けの在り方を考えて設けています。
また、事例の中では触れていませんが吹抜けは面積調整を兼ねていることもあります。建蔽率や容積率がそれぞれの地域で決められていますので、その制限に合わせて計画しています。建蔽率50%、容積率80%などという面積配分に偏りのある条件の時には吹抜けを設けることが有効に働くことがありますので合わせて付け加えておきます。

今回取り上げた事例は吹抜けのつくり方のごく一部です。意味のある吹抜けがあることでそれぞれの住まいが豊かになっていることを感じて頂ければ嬉しいです。豊かな住まいが丁度いい暮らしを生み出すきっかけになっているとも思います。一方で「丁度いい」は人それぞれだということも分かります。ある方にとっては丁度いい場合でも、別の方にとってはそうではないことはあると思っていますので丁度いいは奥が深いです。是非、皆さんにとっての「丁度いい」を想像してみてください。

次回以降も続けていきますので、よろしくお願いします。

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第1回「機能的なだけじゃない。玄関の工夫」

これから家づくりをする方や家づくりを考え始めようとしている方に向けて、このブログの中で不定期に連載をしていこうと思います。

個別のテーマはその都度変わりますが、連載のタイトルは『丁度いい暮らしと住まいのつくり方』として、これまでの設計事例の中からテーマに合わせて新築、リノベーションにとらわれず事例をご紹介しながら、毎回「丁度いい」暮らしや住まいとはどのようなことなのかを探っていきたいと思います。

丁度いい暮らしを生み出すための設計の工夫や考えたこと、クライアントの要望にどのように応えてきたのか、その他、個人的な想いなども書いていきたいと思っていますので是非お付き合いください。

今回は第1回目として住まい手やその暮らしに合わせて色々なつくり方ができる玄関を探りたいと思います。

私が子供の頃の記憶ですが、友人の家に遊びにいくと玄関がとても広くて立派なお宅がまだまだありました。私が育ったのは横浜市郊外の新興住宅地でしたが、近くには地主の方や農家さんも多く、大家族だったりもしたので大きく立派なお宅があったのだと思います。彼らの家にはその広さに比例するように広く立派な玄関がありました。「玄関は家の顔」ということばを聞くこともありますので特に玄関は立派だったのかもしれません。

一方で、現在の住まいの多くは単世帯で独立した家族が住む家がほとんどです。建替えや相続で親の土地を引き継がない限りはご自身で土地を購入して家を建てる(または土地と家を買う)ということになります。
私のところに相談に見えるクライアントの皆さんも予算配分をしながら土地を購入して限られた敷地や予算の中で住み心地の良い家をつくりたいという方がほとんどです。

私自身の感覚として、玄関が狭くて窮屈なのは嫌だなと思っています。逆に広すぎるのも持て余してしまうようでしっくりこないのです。

ここには「丁度いい」広さや大きさや設えが存在すると思います。

玄関には機能的に必要な動作寸法や広さがありますので、そこは可能な限り確保しつつ、それ以外の何かがあるとより良い場所になり、玄関だけで終わらない魅力的な空間になると考えています。今までの事例を振りかえってみても玄関のつくり方に特徴のある住まいが多いことに気づきます。

最初はマンション(団地)リノベーションの事例をご紹介します。

玄関扉を開けたところです。玄関の幅は変えられなかったので視線を奥まで導くような工夫をしました。視線を奥まで導くために玄関の土間を伸ばし部屋の突き当りまで延長しています。これにより自然と視線が奥に向かうような心理的な操作をしています。また、写真左手の大きな扉が左手奥にある部屋を隠しているので光だけが土間部分にもれてくることで奥の部屋がどうなっているのかを想像させるような設え方としました。見えない所をつくることで頭の中に無限に広がる空間をつくり、一方で見える部分を極端に引き延ばすことで物理的な広さの「感覚」をつくり出しています。

こちらは、玄関から奥を見たところです。この住まいはロの字型の巨大なマンションの角に位置する部屋のため共用廊下から主の部屋に至るまでに廊下状の場所を通る構造になっています。一見すると不便に感じるこの特徴を活かして部屋の中に路地のようなアプローチ空間を設けました。幅が狭いことも逆手にとって奥までを長く感じさせるように壁面に照明の明かりを集め、リズムを生み出しました。写真の場所は室内ですがあえて土足で移動する場とするために大谷石を敷いた土間としています。

この2つの事例は玄関に入った時の印象をどのようにつくり出すか、移動している時の人の感覚をどうコントロールするかに注目して考えています。

次の事例では玄関に入った時に、先に見える光景を意識しつつ、別の用途を付加しています。
玄関に入ると写真のように先の明るい光が印象的に見えます。奥行が感じられ、奥に導かれるようです。玄関の横には段差なくつづく土間を広く取りました。

この場所は奥さんの仕事場でもあります。玄関が広いのか、仕事場が玄関まではみ出しているのか、厳密にそれぞれの場を分けるのではなく、境界を曖昧にすることで何となく自然なつながりが生まれるようにしました。これは仕事の来客があった際にも土足のまま打合せが出来たり、仕事以外の時間は玄関の要素がはみ出してきてもいいようなつくり方をしたためです。面積が限られる場合には、幾つかの機能や用途を兼ねることでお互いが無理なく成立するようなことを考えます。

ここからは戸建住宅の事例です。
戸建住宅の場合は玄関に至るまでも建築的にコントロールすることが可能になります。

旗竿敷地に建築した小さな住宅の事例です。竿の部分を長いアプローチと見立てることで玄関までの距離を利用して気持ちを整える場にしています。ただの通路になるか、意図的なアプローチになるかは、その設え方で変わってくると思います。玄関部分にあたる建物の一部がアプローチに顔をだし、引戸をあけると裏庭まで視線が抜けていきます。

この工夫により外部である通路が建物と密接な関係を持つアプローチに変わっています。写真では分かりにくいのですが実際にこの場に立つと設計の意図を感じることができます。クライアントはこのアプローチを通るたびに、この体験を繰り返してくれていると思います。
話しが玄関から逸れてしまいました。

引戸をあけて、玄関の中に入るとそこは上部に吹抜けのある広い土間空間になっています。これは、画家である奥さんが床にキャンバスを置いて絵を描くための設えですが、同時に開放感のある気持ちの良い玄関ホールを兼ねています。細長いアプローチを抜けて中に入ると上空にも開けた開放的でダイナミックな空間があらわれるという仕掛けです。

私は設計をする時に常に人が動いていく視線を追いかけ、どのような気持ちや感覚になるのかを想像しています。専門的な言い方になりますがシークエンスをつくり出すことを考えています。これは私が感銘を受けた実際の建築体験が大きく作用していると思いますが、その話しは長くなるのでまた別の機会にしたいと思います。

この住まいも旗竿敷地に建築した戸建住宅の事例です。玄関扉を開けると2階へあがる階段が見えます。中に入り左を向くと子供室を通して裏手にある緑地の緑が広がっている様子が飛び込んできます。

上に目線を移動すると上空にある高窓から光が落ちてきます。広いスペースを確保することは他の部屋との兼ね合いで難しかったのですが、逆に他の部屋や場所を取り込むことで玄関が広く感じられるつくり方を試みました。

この考えに至るまでには、扉の取りつく壁面をどこにするか、どの方向に入ってくるのが良いのか、入った時に階段がいきなり見えることでどう感じるのかなど、幾つものシミュレーションと想像を繰り返しました。

私はそれぞれの場所が単に機能的であれば良いとは思っていません。機能が疎かになるのは良いことではないので、機能を十分に満たした上でそれぞれの住まいにとってのベストな方法を毎回模索しています。そこに住む方は毎回違うので当たり前だと思いますが、幾つかのパターンから良さそうなものを当てはめるようなことはしません。玄関ひとつとってもこのようなにアレコレと考えを巡らせてつくっていきますので、どうしても時間が掛かってしまいます。建築家との家づくりに時間が掛かるひとつの側面だと思います。

こうして幾つかの事例をみてみると、玄関のつくり方にも色々な方法があるということがお分かりいただけると思います。自分でも色々なつくり方をしていると改めて気づかされます。色々なつくり方があるのは、基本的には私のクライアントに対する想いや個人的な考え方が影響していると思います。共通しているのは「こういうものだ」とか「こうでなければいけない」という偏った常識にとらわれず、それぞれのクライアントに合ったつくり方や暮らし方があるので、そこを間違えないようにしたいということです。そして常に機能的で美しくありたいということです。

今回取り上げた事例は玄関のつくり方のごく一部です。これが全てではありません。また、「丁度いい」は人それぞれだということも分かります。ある方にとっては丁度いい場合でも、別の方にとってはそうではないことはあると思っていますので丁度いいは奥が深いです。是非、皆さんにとっての「丁度いい」を想像してみてください。

2回目以降も続けていきますので、よろしくお願いします。

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