Sさんから、はじめて連絡を頂いたのは雑誌「クロワッサン」に記事が掲載されて、しばらくたった頃でした。
「これからの住まいや暮らし方を考える中で、雑誌で青木さんの記事を見て、まずは話だけでも聞いてみたいと思い、事務所に伺ったのが最初です」（Sさん）。
家づくりを考えていたものの、どうやって土地を探せばいいのか分からなかったと言います。
「実際に家を建てることを、具体的に考えることができたのは、青木さんが紹介してくれた不動産会社の方に、ファイナンシャルプランニングをしてもらえた点が大きかったです。どれくらいの金額まで、土地・建物にかけられるのかを知ることができて、安心して進めることができました」（Sさん）。

「建築家は気難しい方が多く、私たちが頼むのは敷居が高いと思っていましたが、青木さんは物腰も柔らかく、丁寧にお話をしてくださる感じを受けて、信頼してお願いできそうだと思いました」（Sさん）。

土地探しをしている中で、緑を感じながら暮らしたいと話していたSさん。
設計は、この隣接する緑をどのように取り込むかを意識しながら進められました。2階建ての住宅ですが、1階・2階のどこに居ても隣の緑と、自分たちの土地に植えた植栽を楽しむことができる住まいとしてつくられています。
2階の窓辺には緑を眺められるカウンターがしつらえられています。暮らしはじめて、この場所から双眼鏡で鳥を観察するのが楽しみになったそうです。

2階にはキッチンとダイニングのほかに図書室、パントリー、トイレがあります。ダイニングの隣につくられた畳敷きの図書室は、床が1段下がり、天井が低いことで自然と気分が切り替わる場所。段差に腰掛けたり、窓辺のベンチに座ったり、床に寝転んだり、いろいろな使い方がある、リラックスできる場所としてつくられています。

キッチンはシンクとコンロがそれぞれのカウンターに分かれた2列型です。
「作業スペースが広いので子どもと一緒に調理ができます。吊り戸棚のほかにパントリーもあるので、すっきり片づくところが気にいっています」（Sさん）。

すっきりと片づいたキッチンの角にも2方向に窓がもうけられています。穏やかな光と、隣の緑を楽しめるようにつくられています。「風を感じながら、気持ちよく料理ができます」（Sさん）。

玄関と階段は同じ場所にあります。必要十分な広さがあり、収納や姿見が扉と一体的につくられています。さらに玄関と階段の上が吹き抜けているので、気持ちがよく、開放感があります。

1階には子ども室と寝室、納戸と水廻りが配置されています。子ども室は、将来2部屋に仕切ることを考えてつくられています。窓の外に、木を植えることでゆるやかに視線を遮りながら、室内から緑が楽しめるようにつくられています。自分たちの土地の植栽と隣の緑がつながって見えるので奥行きが感じられます。

子ども室の窓際は2階まで吹き抜けています。天井が窓の手前で終わり、上が抜けているので、より多くの空を見ることができます。光がより多く入ってくるので部屋の奥まで明るくなるように考えられています。

寝室は畳敷きの5帖です。押入れを兼ねた納戸がついているので布団や洋服を収納しています。窓の先にはデッキスペースがのびています。洗濯物を干すための実用的な場所でもありますが、シンボルツリーのアオダモの葉が夏の陽をあびて輝いています。機能的で、心地良さが感じられるようにつくられています。

玄関の引き戸を開けて外にでると、手入れされた木々に包まれます。木が実をつけたり、小さな花が咲くのを見ると季節の移ろいが感じられます。

住まいとともに成長を続ける庭の木々や植物は、時にはプロの手を借りながら、Sさん家族により大切に育てられています。庭があることで、小さいながらも、緑のある暮らしを楽しむことができます。

「完成した住宅に住んでみて、自分たちの暮らしに合った家というものの住みやすさや居心地の良さを実感しています。これから、子供たちとともに、この家が味わい深く成長していくことが、とても楽しみです」（Sさん）。
自分たちで手入れをしながら大切に住みたいと考えるSさんご夫妻らしい素敵なことばです。